陰毛
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陰毛(いんもう)とは、ヒトの陰部(生殖器)周辺に生えている毛である。別名としては恥毛、性毛、俗称にはチン毛、マン毛、ヘア、あそこの毛、しもの毛、などがある。間接的表現としてアンダーヘアと呼ばれることもあるがこれは和製英語で、本来の英語ではPubic Hair、Pubeである。
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陰毛の生理
- 第二次性徴期における副腎皮質ホルモンの分泌に従い、思春期頃から発毛が始まる。発毛年齢の平均は、男性で11歳頃、女性では10歳頃である。しかし、かなり成長してから生え始める人もおり、発毛が始まる年齢の分散は小さくない。
- ほとんどの男性は発毛するが、女性は発毛が見られないか、わずかしか発毛しない無毛症(パイパンは俗称)の人がわずかながらみられる。無毛症であっても、ホルモン剤によって発毛させる事や植毛も可能ではあるが、発育不良や放射線被曝などが原因でなければ、健康上の心配はない。
陰毛の性質
- 陰毛は一般に縮れ毛であり、陰部に集中して発毛する(右の参考写真参照)。陰毛の濃さ、面積等は個人個人の差が大きい。また頭髪と同じく、加齢などによって毛の色が白くなる事もある。生殖器周辺のみに発毛しない人がいる一方で、臍の辺りから臀部まで生える人もいる。
- 個人差にもよるが、男子の場合、第1次性徴期と同じ状態(第1次段階)から陰茎と陰嚢との付け根の間から発毛し(第2次段階)、陰茎より上の部分に発毛し、徐々に恥丘やビキニラインと呼ばれる下腹部周辺に生えるようになる(第3次段階)。またその後は臍の辺りまで発毛し、精巣の発達とともに陰嚢への発毛がみられ、しばしば会陰から肛門周辺までの発毛がみられる(第4次段階)。そして、成人型の第5次段階になる。
- 陰毛の色は、基本的に頭髪の色と同じである。ただし、頭髪が金髪であっても性器の一部が見えないように黒に染めている場合や、また頭髪はブリーチして金髪や茶髪に見えても、陰毛は自然な色のままである事もある。頭髪のほかにも、眉毛の太さで陰毛の濃い薄いが明らかになる事もある。眉毛の濃い人は陰毛も濃いという説もあるが、それはむしろ髪を除いた全身の毛に対して言える事である。
陰毛にまつわる伝説
伝説的な話として、中国、唐の時代の美女と言われる楊貴妃は、陰毛が足に達するくらい非常に長いと言われる話がある。しかし、毛乳頭によって毛がつくられ、一定の期間にわたって伸び、やがて抜け落ちるという毛周期により、話ほど長くなる事はないと考えられる。
陰毛の長さは、男子平均で4~5cm、女子で平均3~4cmといわれており、それほど長くはならず、10センチに達する人は珍しい。18cmに達する陰毛が存在し、博物館に保存されているとも伝えられている。
又、陰毛の生え際の形によって、性格や健康状態などがわかるという、一種の占いもある。陰毛が濃く、広範囲に生えている人は、「情が深い」とも言う者もいる。
かつての日本では、召集された兵士が、妻や恋人の陰毛をお守りとして戦地へ持参したという話や、プロ麻雀師が一大勝負に赴くときに懇意の情婦の陰毛を「霊現が付く」とお守りとして持参したという話もあり、これにならって陰毛が受験や賭け事や勝負事でのお守りになるという言説も、しばしば見られる。
科学的な根拠があるというわけではないこれらの例も、性を神秘的なものととらえる、古い時代からの性器崇拝の名残りであるといえよう。
陰毛とその表現
西洋では宗教による禁欲主義的な思想の影響などから、陰毛や性器の表現が抑制される傾向が古くからあった。しかし、古代ギリシアに造られたアリストファネスの喜劇「女の平和」には、浴場での女性同士の会話として、話し相手の陰毛が綺麗に脱毛されている事に言及する場面がある。又、イタリアルネサンスの代表的な芸術家であるミケランジェロの彫刻ダビデ(1504年、右図)には若い男性の陰毛が表現されている。
女性の裸体を描いた絵画や彫刻は古代から数多く存在するが、はっきりと陰毛が描かれるようになったのは、19世紀後半のギュスターヴ・クールベによる世界の根源(1866年、右下図)や、20世紀の前半に活躍したベルギーのポール・デルヴォーの絵画あたりからである。女性の陰毛が表現されるのが遅くなったのは、西洋においては古代ギリシャ以来、美しい女性は陰毛を含めて体の毛を抜いておくのが身だしなみだとされていた事が大きな要因と考えられる。
日本では、江戸時代の春画にしばしば陰毛が描かれているが、明治維新後に制定された刑法175条によって、陰毛が描かれたものは猥褻であるとされ、メディアにおいてその表現は長い間禁じられていた。しかし、東京国際映画祭の招待作品であったジョージ・オーウェル原作の映画『1984』に女性の陰毛が露わになるシーンがあって問題となったが、招待作品である事から特例として映像を修正することなく上映する事が認められた。それ以後、いわゆるヘアヌードと呼ばれるヌード写真が刑法で猥褻と見なされる事は事実上なくなり、映画、ビデオなど、様々なメディアにおいて陰毛の描写については規制が緩和された。
テレビなどで放映される時には、陰毛が写っているとモザイクやぼかしなどによって修正されるが、一部の番組では陰毛が写っていても、修正されない場合がある。ビデオによる撮影では陰毛が写っているシーンがあると、モザイクをかけるが、俗に言われる裏ビデオではモザイクによる修正をしない場合が多い。又、生放送では陰毛が映っているシーンがあるがいきなり修正する事が出来ず、画面を切り替えたりカメラを違う視点に変えたりするなどそれらに対処する術が難しい。このように日本国内での規制・自主規制はいまだに厳しいが、韓国では陰毛の写った媒体を曝け出すと日本よりも厳しい罪に問われる事がある。
しかし、欧米のほとんどの国々では陰毛や性器を映像とする事自体は自由であり、青少年の目に触れないようにするという観点からの規制が存在するのみである。なお、国によっては、ヌーディズムのために裸体でいる事を認められた特定の区域以外において、人前で陰毛を含めた陰部を見せると犯罪となる場合もある。
なお、ヨーロッパではベネトンが、エイズ撲滅キャンペーンの一環として、数十人の老若男女の陰毛・外性器の写真を並べた新聞広告を出した事があるが、この時は特段の問題にはなっていない。
この他、雑誌などにおいて人体の事を取り上げ、何故陰毛が生えてくるのかという記事がしばしば見られる。セックスをするためのアイキャッチや、セックスが出来る体に成長した事を示すために発毛する、陰毛が生殖器を保護する、男性が興奮する起爆剤の一種であるなど、諸説があるものの、現時点では明確にはなっていない。又、哺乳類のうち人類だけ、体毛のほとんどが薄くなっているのに部分的に陰毛が残っているのは何故なのかなど、解明されていない事も多い。
陰毛と衛生
毛じらみ症は、陰毛に寄生して繁殖する小さな吸血昆虫が性行為の相手から移ってくる事により発症し、激しい痒みを引き起こす。診察を受け、剃毛して軟膏を塗るなどの治療が必要である。
包茎手術や帝王切開、あるいは虫垂炎の手術など、性器やそれに近い部位の手術を実施する場合には、毛根で雑菌が繁殖して術後の化膿を防ぐために剃毛が行われている。切開を伴わない通常の分娩でも剃毛が行われてきたが、意味がないという事から剃毛せずに分娩する医師が増えている。
仮性包茎の包皮に陰毛が引き込まれ(俗にそば食いと呼ばれる所常態で)、ペニスが動く事により陰毛が引っ張られて痛みを生じる事がある。陰毛を包皮から取り出せばすむ事であるが、ペニスが陰毛に触れないように分離する構造の下着も発明されている。仮性包茎の手術を勧める広告には、陰毛が包皮内の恥垢に触れる事で雑菌の繁殖がうながされる事が書かれている場合が少なくない。しかし、日常的に性器を洗って清潔にしておく事で解消できる問題であり、商業主義的な広告であるとの見方もある。
女性は排泄の後、トイレットペーパーを使用するにあたっては前から後ろへ向かって拭くように幼児期から育てるべきだというのが常識となっている。これは大便内に存在する大腸菌などが性器やその周辺の陰毛に付着して繁殖しないようにとの配慮からである。
又、腋にあるアポクリン汗腺の分泌液によって強い臭いが出るわきがと同様に、陰部のアポクリン汗腺によるすそわきがもある。わきがは、わきのアポクリン汗腺を外科的に取り除いてほぼ完全に治す事が出来るが、すそわきがの場合には永続的な効果のある治療は困難である。陰毛を永久的に脱毛して、日常的に陰部をよく洗浄して清潔にしておく事によって、生活に支障のない程度の効果は期待出来るようである。
陰毛と性行動
一般に、性交することにより、互いの陰毛が摩擦しあい、摺り切れたりする。女性強姦殺人で死刑を宣告された某囚人の陰毛は、逮捕直後の取り調べの頃はかなり擦り切れていたが、半年後は先端まできれいな毛に生え替わっていたという話がある。
その他
「陰毛」と題した小説が大谷昭宏によって書かれている。「陰毛怪怪殺人事件」といわれるシリーズである。
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