ACアダプタ
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ACアダプタ(エーシーアダプタ)は、小型家電製品等で用いられる、電源装置。 商用電源より交流 (Alternating Current, AC) 電力を入力し、それぞれの機器に合わせた形式の電力を出力する。直流電力を出力するAC-DCアダプタが一般的である。
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[編集] 概要
電力会社から供給される商用電源は、一般的に交流である。しかし、現代の電気機器において、交流電源をそのまま利用するものは少なく、変圧器や整流器、安定化回路などからなる電源装置によって、一旦直流に変換してから使用するものがほとんどである。一般的な家電製品は、本体内に電源装置をもち、電源ケーブルで直接家庭用商用電源のコンセントに接続することができるようになっている場合が多い。しかし、何らかの理由により本体内に電源装置を内蔵することが適当ではない場合、本体とは別に、単体の電源装置を使い、本体への電源供給は直流電力で行う場合がある。このような電源装置のことを、交流電力を直流電力に変換するための変換機という意味をこめて、AC-DCアダプタ、ないしは単にACアダプタと呼んでいる。また、電源装置のうち変圧を担当するトランスだけを独立させたAC-ACアダプタについても、ACアダプタと呼ぶ。
ACアダプタが利用される典型例として、携帯電話、携帯音楽プレーヤー、携帯型ゲーム機、ノートパソコン等のように、持ち歩いて使用されることが想定されている機器がある。これらの機器は、その使用目的から、本体に内蔵された電池によって駆動できるように作られており、また小さく軽く作ることが求められる。このような機器では、家庭用商用電源ようの電源装置を常時使用するわけではないため、これを本体に内蔵するべきではなく、外部の電源装置を用いて直流電力を供給することが適当であるといえる。
また、ACアダプタは、一般の家庭用ゲーム機、省スペースパソコン、薄型テレビ等で用いられる場合がある。これらの機器はそれを直接操作することが多かったり、直接見ることが目的であったりするため、使用者の手の届く距離において使用されることが多く、設置場所の自由度やデザイン的な観点から小型・薄型であることが求められる場合が多い。これらの機器は小型であることがその商品価値を高めることに直結するので、本体から電源装置を切り離すことによって実質的な小型化を実現するのである。
また電源を内蔵可能な大きさの機器であっても、電源が発する熱やノイズを避けるため、あえて電源を内蔵せずACアダプタとして、本体から分離することもある。
本体と電源を分離するときに、電源以外の機能もいっしょに本体から分離する場合もある。 一般にはACアダプタのカテゴリに含まれないが、典型的な例としてアップルコンピュータのマッキントッシュ20周年記念モデル(スパルタカス)における、サブウーハーと電源部分とが一体となったユニットがあった。他にも、クレードルやドッキングステーションなどの中には、電源と他の機能を一体として作られたものがある。
内蔵する充電式の電池(二次電池)によって駆動することを前提とする機器では、ACアダプタの主目的は、電池を充電するための電流を供給することである。携帯電話など、こうした機器のACアダプタのことを充電器(充電機、じゅうでんき)と呼ぶこともある。もっとも、一般的なACアダプタ自体には本来の意味での充電器が備えているべき充電制御回路などは搭載されていない。
ACアダプタを用いる製品には、多くの場合ACアダプタが付属している。しかし、乾電池などでも駆動可能な機器や、USBやIEEE1394などからバスパワーによって電源を確保できる機器では見かけ上の低価格化等を意図して付属させない場合がある。このような機器でACアダプタを利用する必要が生じた場合には、別途購入するなどして用意しなければならない。
[編集] 電気回路
ACアダプタは、コンセントより得た交流電力を、内部の変圧器(トランス)によって電圧を降下(降圧)させた後、整流器(ダイオード)によって整流し、シリーズレギュレータまたはスイッチングレギュレータといった安定化回路を経由して安定化させた直流電力を出力する機器である。 小容量のものでは安定化回路が無く、変圧器と整流器、簡単な平滑回路(大容量コンデンサ)だけで構成されたものもある。
交流から直流への変換時に生ずる電力損失はすべて熱に変わる。 使用中のACアダプタが熱を持つのはそのためである。 シリーズレギュレータを使用した安定化電源回路を搭載している場合、この部分での熱損失が非常に大きい。 スイッチングレギュレータの場合も発熱はするがシリーズレギュレータに比べればそれほど多くはない。 同様の回路構成では、容量が大きいほど発生する熱も多くなる傾向にある。 大型のACアダプタでは、冷却用のファンを搭載し強制空冷としているものもある。
使用時以外でもACアダプタには内部回路の構成上、微弱ながら電流が流れている。 待機電力の消費を減らすためには、使用していない機器のACアダプタはコンセントから外しておくことが望ましい。特にスイッチングレギュレータ方式の場合、AC側が通電している限り常に内部ではON-OFFが繰り返されているため、寿命を縮める原因にもなる。 なお、ACアダプタは交流から直流への変換(順変換)を目的とした機器であり、直流から交流への変換(逆変換)は不可能である。
[編集] 外観・形状
一般的なACアダプタについて外観から特徴的な部分を抜き出すと、大きく分けて3つの部分からなることがわかる。すなわち、コンセントへ差し込むプラグ部分、変圧回路・整流回路・安定化電源回路などを収めた本体部分、そして、電気機器に直流電力を供給する出力部分である。 このうち、コンセントへ差し込むプラグ部分に関しては、本体に直接ついているものと、本体からケーブルが延びているものがあり、後者はさらにケーブルが固定されているものと、脱着可能な電源コードの形を取るものにわかれる。出力部分に関しては、本体から直接固定されたケーブルとその先端に取り付けたDCプラグからなる場合が多い。
[編集] 本体部分
ACアダプタの筐体の形状は一般に箱形である。 黒色あるいは暗灰色のプラスチックで、その表面には定格や安全基準を示すマークが記載されている。 近年ではデザイン性を重視し、明るい色を用いたり直方体とはかけ離れた外見を持つものも多い。 例えば、アップルコンピュータなどは、本体と統一感のあるデザインのACアダプタを開発している。 一般に、ノートパソコン用など持ち運ばれる機会が多いものに関しては、可搬性・収納性を考慮したデザインがとられる傾向にある。
本体の大きさは、ACアダプタの回路構成や出力電力の大きさによって決まる。 一般にシリーズレギュレーターを使用したものであれば、変圧器(トランス)やレギュレータからの発熱を逃がすための措置(ヒートシンク、特に高出力のものではファンなど)が必要となり、重くかさばるものとなる。 これに対して、スイッチングレギュレータを使用したもののは回路自体が小型で発熱も少ないためコンパクトである。 また組み合わせる機器によっては、安定化回路を簡略化したり省略したりする事が可能なものもあり、その場合は一層の小型化が可能な場合がある。 また同じ回路構成をとるものであっても、出力電力の大きなものほど部品の大きさが大きくなり、発熱も大きくなる事から、結果として全体の大きさが増す事となる。
可搬性(モバイル性)が求められる機器では、それ自体のコンパクトなデザインをアピールする例も多いが、長期の出張など、出先でもACアダプタを使用しなければならなくなることは多いので、ACアダプタもコンパクトなものであることが好ましい。 ノートパソコンなど、そのサイズのわりに比較的消費電力の大きい機器では、本体に対して大型のACアダプタが必要であるということがある。 最近では小型で高性能なスイッチングレギュレータがあり、かなりコンパクトになっているが、10年ほど前はかなり大きなACアダプタが使われていた。 また、通常の運用に必要な電力がそれほど多くない機器であっても、充電式の電池を利用する場合、その電池を急速に充電するために大きな電流の供給が要求されるため、機器のサイズに対して大型のACアダプタが使用される。 特に、携帯音楽プレーヤーなどの音響機器はその特性上、スイッチングレギュレータが発するノイズによる悪影響を考慮し、シリーズレギュレータを使用したACアダプタをくみあわせる事が多く、機器本体よりも一回り以上大きなACアダプタを使用する場合も少なくない。
スイッチングレギュレータを使用したACアダプタと、シリーズレギュレータを採用したACアダプタのサイズの比較として、ある携帯電話用のものと、ある携帯音楽プレーヤーの付属のものを取り上げて比較する。 前者はスイッチングレギュレータを採用した小型ACアダプタの代表例である。 出力電圧5.4V、定格出力電流550mA、すなわち約3Wの出力を持つものでも4cm×4cm×1cm程度の大きさしかなく、この大きさのうちにコンセントプラグを折り畳んで収納する部分も含んでいる。 一方、変圧回路とシリーズレギュレータを用いた携帯音楽プレーヤーのACアダプタの一例として、定格出力電圧4.5V、定格出力電流400mA、定格出力1.8Wという比較的小出力なものを取り上げるが、これでさえも約5cm×5.5cm×8.5cmという大きさをもつ。
[編集] 入力部分
ACアダプタに対する交流電力の供給は、通常は家庭用商用電源のコンセントから行われる。 コンセントの差込プラグはACアダプタ本体に直接ついているものと、本体からケーブルが延びていてその先端についているものがある。 後者の場合ケーブルの着脱が可能となっているものも多い。
ACアダプタ本体にコネクタが直接ついているのは小型なものに多いが、隣接するコンセントの穴をふさいでしまうことが多いという問題を抱えており、改善が望まれている。 これは延長コードの利用により解決でき、ごく短い延長コードなども市販されいる。 プラグ部分を折りたたんでコンパクトに収納できるものもあり、これは可搬性・収納性・安全性などの見地から見て優れた改良であるといえる。 プラグを上に向けて床に置かれたACアダプタを誤って踏むようなことがあると、プラグ部分が折れ曲がり使用不能になるほか、ひいては足の裏を傷つけるという危険がある。
その点、コネクタがケーブルの先についているものは取り回しがはるかに楽である。 比較的大型で重量のあるACアダプタの場合、本体に直接コンセントプラグをつけたとしても、コンセントプラグだけで自重を支えることなど出来ないから、必然的にこのような形態をとることになる。
電源ケーブルの着脱が可能なものでは、これを交換することによりプラグ形状の異なる外国での利用に対応することができる。電源ケーブルとACアダプタ本体の接続部分は、日本の場合、数字の「8」の字状の断面を持つめがねコネクタなどと俗称される二極のコネクタが用いられる場合が多く、海外メーカーによる製品など、パソコンの電源ケーブルなどにおいても散見される、三極コネクタが用いられる物も多い。
ACアダプタの中には、全世界対応と称してAC 100ボルトからAC 240ボルト程度の範囲の入力電圧に対応する製品もある。 手動で切り替えるものもあるが、最近では自動的に追従するものがほとんどである。 このような製品で、電源ケーブルが着脱可能なタイプの場合、日本国内で売られているものの中には電源ケーブルの定格電圧が115V程度のものも多く、このような製品の場合ヨーロッパ諸国など200V以上の地域で用いる場合には対応したケーブルを別途用意する必要がある。コンセントアダプタや電源ケーブルは家電量販店や空港の売店などで購入することが可能である。
[編集] 出力部分
直流に変換され、出力された電力は細くしなやかなケーブルによって送電され、コネクタによって機器と接続される。 コネクタの大きさ、形状、端子数は電圧や容量などによって異なる。
電圧によってコネクタの形状やピン配置が統一されているEIAJ 極性統一プラグも存在するが、メーカー独自のコネクタを採用している例は数多い。 携帯電話のACアダプタでは、携帯電話の規格ごとに統一されている、外部接続端子を利用しているものが多いのだが、メーカーごとの相性問題を回避するため、おなじメーカーのものでなければ接続できないように、突起を設けている場合が多い。 PC周辺機器等ではUSBのバスパワーによって動作・充電するものが多く、このような機器に使用するために、USB端子を持ち電源端子に電力を供給する機能を有する汎用ACアダプタも存在する。
ACアダプタを別途用意する場合は、その機器に付属したもの、あるいはメーカー指定のもののみを利用することが安全である。 出力電圧・容量などは機器によって異なるため、製品ならびにACアダプタの仕様をよく確認し、その製品の仕様に適合していることを確かめなければならない。 電圧や電流容量の点で適合しているように思えたとしても、安定化電源を前提とした機器に安定化回路無しのものを接続したり、シリーズレギュレータのものの代わりにスイッチングレギュレータのものを接続すると誤動作や故障の原因となる。
また、さまざまな機器に共通して使用できるよう、出力電圧が可変となっているような汎用性の高いACアダプタも存在する。 このような製品では、一般的にプラグの先端部分を使用する機器のコネクタに合わせて交換することが可能となっているものが多い。 しかし、出力プラグを交換可能な汎用ACアダプターを利用すると、たとえEIAJ極性統一プラグを利用していても、機器の定格と異なる電圧を入力してしまう虞があり、注意が必要である。