樫野 (給兵艦)
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樫野(かしの)とは、大日本帝国海軍が建造した給兵艦(補給艦)である。1940年7月10日竣工。
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[編集] 概要
「給兵艦」とは、主に武器・弾薬などを搭載し輸送する艦である。通常、このような艦は弾薬を暴発させないための冷房設備を備えたりするが、「樫野」は給兵艦としては一線を画す艦である。
本艦本来の目的は、給兵艦ではなく大和型戦艦の主砲塔を運ぶ「重量物運搬船」である。
[編集] 建造の経緯
海軍は、大和型戦艦の建造を決定したが、その主砲を「九四式四十糎砲」と呼称するなど46センチであることは極秘になっていた。その46センチ砲を制作するところは呉工廠一カ所しかなく、同じ呉で建造される「大和」以外の艦、「武蔵」(長崎の三菱造船所)・「信濃」(横須賀工廠)の艤装をおこなうために、主砲及びそれらの部品を輸送する必要があった。しかし、民間船で輸送した場合、そこから機密が漏れること可能性を恐れた海軍は。大和・武蔵建造を決めた第三次補充計画において、それらを輸送する目的で本艦の建造も決定、昭和15年、三菱の長崎造船所で竣工となる。
[編集] 構造
本艦には、計三カ所のハッチがあるが。最前部のハッチは、主砲身の運搬に支障が出ないように砲身長とほぼ同じ長さ(砲身20.7、最長開口部19.2メートル)となっている。2・3番目のハッチは砲塔基部の部品を搭載する関係で円形となっている。
重量物を搭載するための強度アップのために、船体を船幅方向で切った場合、上部が外側にめくれたようになっている。また、重量物の輸送中に座礁した場合に備え、船体そのものが完全な二重構造となっている。本艦は、一度に主砲砲身6本・主砲塔2基を輸送できる。
本艦建造に対し、技術吸収の意味もあり外国製の機関を搭載している。スイスのブラウン・ボベリ社製のタービンとアメリカのラモント社製の缶を搭載している。缶は、蒸気温度450度・蒸気圧力50気圧と(商用であるが)島風を上回る(400度で40気圧)。ただし、外国製の缶の他に日本製のホ号艦本式重油缶も併載している。 因みに超大和型戦艦用の砲塔も搭載できる設計となっていた。
[編集] 性能諸元
- 基準排水量:10,360トン
- 全長:130メートル
- 最大幅:19.9メートル
- 喫水部幅:18.8メートル
- 主機:ブラン・ボベリ式オールギヤード蒸気タービン 1基
- 主缶:ラモント式重油缶2基 ホ号艦本式重油缶2基
- 速力:14ノット
- 搭載燃料:重油900トン
- 航続力:14ノットで6,000海里
- 兵装
- 火砲:十年式12センチ45口径単装高角砲 2基
- 機銃:13ミリ3連装機銃 2基
[編集] 戦歴
昭和16年、武蔵の砲塔部品輸送のため、呉から長崎へと航海。そしてこれが、本来の任務に使われた唯一無二の航海である。輸送任務を終えた後は、通常の輸送艦として使用。昭和17年9月4日、台湾沖で潜水艦「グラウラー」の雷撃で沈没。わずが2年ほどの生涯を終える。