里山
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里山(さとやま)とは、集落、人里に接した山をいう。関東地方の平地部では、クヌギやコナラ、シイといった広葉樹による森林が形成された丘陵、低山を指すことが多いが、平野あるいは台地上のものを指すこともある。このような山は、薪、炭の供給や落葉による堆肥づくりなど、地域の経済活動と密着した山であったが、石油エネルギーへの転換、また開発や防災事業によってほとんど失われているのが現状である。そのため、自然の攪乱地に成立する生物群集の一部が日本から失われる事態も危惧される。
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[編集] 里山の植生
里山といわれるのは、関東近辺では、クヌギやコナラなど、落葉性のブナ科植物を中心とする森林や、ヤニを含み焚付けに適した松などである。この地域は、本来の極相は常緑広葉樹林であり、いわゆる照葉樹林帯に属する。しかし、古くから伐採を繰り返し、また燃料や肥料として落葉落枝を収集し、下草を刈るといった人間の活動によって、極相ではなく落葉樹林の状態で安定しているものである。つまり、里山は、人の手が加わった半自然の二次林である。同じような条件でも、より南の地域では、これらのほかに常緑のシイがよく出現する。このような、人為的攪乱などにより、極相が壊れて成立した植生を代償植生という。
[編集] 里山の価値
- 地域の人間に木炭や堆肥などのエネルギー、有用資源を供給する。
- 人手が入っているだけに、深山の貴重な動植物は生息しないものの、人が入りやすい林であり、林床が比較的明るいので下草にも花をつけるものが多く、また落葉樹林によくあるような春先に花をつける草花が目立つなど、親しまれる要素が多い。
- 本来ならば自然の攪乱作用によって生じた広範囲にわたる環境に適応した生物種の生態を、人為的な攪乱作用が行われているので狭い範囲で観察することができる。
里山はかつての日本人の生活に役立ち、なおかつそれが長期にわたって維持できる条件を備えていた。言い換えれば、持続可能な開発の一つのモデルと見ることもできる。
[編集] 里山の保全に向けた動き
近年、景観の見直しや自然とのふれあいを求める場として注目され、各地で保全運動が行われている。しかし、かつてのように里山が経済活動と密接して成り立つという基本的な構造が存在しないため、単発的なイベントとして表面的な整備に終わることも多い。本格的な整備を考える場合には、地域住民の参画による定期的な手入れや活用が不可欠であり、末永く取り組む覚悟が必要である。
[編集] 主な手入れと利用方法
- 定期的に立ち木の枝打ちや間伐を行い(これを薪炭として利用していた。)、林床に日光が届くようにする。間伐後クヌギなどは切り株から大量に萌芽更新するので、2~3年後に大きな芽だけ残して切り捨てる作業が必要がある。この作業を繰り返すことにより常に若々しい落葉広葉樹林を保つことができる。
- 下草刈りと林床の古枝などの撤去を行い(これを堆肥として利用していた。)、人が歩きやすい環境を作る。けもの道が残っていれば活用する。
- 現在では薪炭や堆肥としての需要がほとんどないことから枝打ちや間伐材で生じた膨大な木質系「廃棄物」を、あらかじめバイオマスなどとして利用するなどの処理方法を考えておく必要がある。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
- 里山と雑木林の生き物たち里山環境生物学研究所
- 里山法務教室里山同好会