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クラリネット - Wikipedia

クラリネット

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

クラリネット:clarinet、:clarinetto、:clarinette、:Klarinette)は、木管楽器の一種で、唄口に取り付けられた1枚の簧(リード)によって音を出す単簧(シングル・リード)の管楽器

目次

[編集] 歴史

18世紀の初め頃、ドイツ人のデンナー(Christian Denner 1655-1707)が、シャリュモー:chalumeau)を改造して作成したのが始まりである。シャリュモーは、18世紀の後半頃までオーケストラに使用されていたフランスの古楽器で、シングルリードの円筒形木管楽器である。バス・クラリネット等音域の低いクラリネットは、その原型はアドルフ・サックスが考案したといわれる。

[編集] 基本構造

構造は吹口に近いほうからマウスピースベックとも=唄口)、バレル(= アルト・クラリネットより低い音域のクラリネットではネック)、管体、ベル、となっている。管体は、ソプラノ・クラリネットより大型のものでは上部管(上管)と下部管(下管)に分割できるものが多く、これより小型のものでは一体型のものが多いが、これは可搬性を確保するためのものであり、必ずしも音色や音質、音程などの面で優れているわけではない。このため、ソプラノ・クラリネットでも一体型の管体を有するものが、少数派ではあるが存在する。全長のほとんどを占める管体の太さは、ほとんど一定である。これが、クラリネット独特の運指や音色を生む原因である(後述)。

クラリネットの名の付く楽器は多く、クラリネット属と総称する。それらは移調楽器で、それぞれ音域を変えるために管の長さを変えたものであり、運指などは殆ど同じである。

クラリネット属の楽器の基準形はソプラノ・クラリネットで、単にクラリネットと呼んだ場合には通常ソプラノ・クラリネットを指す。ソプラノ・クラリネットの調性は、変ロ(B♭)調が一般的であり、この他にイ(A)調のものがあり、オーケストラなどで多く使われる。変ロ調の楽器とイ調の楽器は唄口部分が共通であるために、演奏中の持ち替えではこの部分だけを差し替えることもある。作曲家によってはそれぞれの管の音色が違いにこだわって、B♭管の曲とA管の曲を書き分ける。たとえば2曲のクラリネット協奏曲を作曲したウェーバーの曲はすべてB♭管用である。しかしながら、単に音域や運指のしやすさでどちらの管を使うかを決める作曲家や演奏家もいる。画像:Clarinet-thumbnail.jpg

[編集] 音域と音色

ソプラノクラリネットの音域(記譜)
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ソプラノクラリネットの音域(記譜)

クラリネットの音域は、記譜で中央ハ音の下のホから上に約4オクターブ弱である。

クラリネット属は楽器学上、現在の西洋音楽で用いられる中ではパンフルートと同様に閉管構造の楽器であり、長さが同じならば開管の管楽器よりも、最低音が1オクターブ低い。また、閉管であるために偶数次倍音が殆ど得られず、音波の波形は矩形をしており、独特の音色を持つ。

他の木管楽器では第2倍音である1オクターブ上の音に同じ、または似ている運指を使うことができるが、クラリネット属では第2倍音が使えないので、第3倍音の1オクターブと完全5度上の音に類似の運指を使う。すなわち、最低音のホですべての側孔を閉じ、ヘ-ト-イ-ロ-ハ-ニ-ホ-ヘ-ト-イと変ロまで順次開けて行き、1オクターブと完全5度上のロで再びすべての側孔を閉じる。このとき第3倍音を出しやすくするためにレジスター・キー(他の楽器でのオクターブ・キーに相当)の孔だけ開く。上のロの直下の変ロおよびイの音域は頭部の短い部分だけで共鳴するため、「喉の音」(スロート・トーン)と呼ばれ、あまり歓迎されない、他の音域とは異なる音色となる。

[編集] 喉の音

「喉の音」はブリッジ音域とも呼ばれ、これはデンナーがシャリュモーを改良した際に、基音列と第3倍音列の間を埋めるために2つのキー(十字形に交わっていることからクロス・キーと呼ばれる)を取り付けたために、このように呼ばれる。そのため、倍音に乏しく、暗くくすんだような音色になりがちである(シャリュモー音域ではレジスター・キーによって第3倍音が出るのに対し、クロス・キーの2音では第3倍音が出ない)。標準の運指では、高音域と行き来する場合、たくさんの指を一度に動かす必要があって難しい。初心者にとって、喉の音の音質、そして喉の音を含むパッセージの運指は、最初につまづく問題になる。

[編集] 喉の音の克服法

第1に、楽器の選定である。標準の運指で喉の音が貧弱な音色しか出ない楽器は避けるべきである(とはいえ、楽器の他の側面のクオリティとの兼ね合いであって、熟達した奏者ならば必ずしも避ける必要はない)。第2に呼吸法を上達させることである。しっかりとした息が楽器に吹き込まれていなければ、よい楽器でも貧弱な音色にしかならない。呼吸法が悪い奏者は、他の音域ではあまり目立たなくても、喉の音の音色が極端に貧弱になる傾向がある。逆に言えば、喉の音を豊かに響かせる練習をすることで、しっかりとした呼吸法を身につけることができ、クラリネットの音域全体の音色を向上させる練習にもなる。第3に、替え指を用いる方法である。クラリネットの初心者用として非常によく用いられる教則本「クラリネット学習の為の合理的原則 基礎編」の中で、J. R. グルウサンはごく早い時期に喉の音と高音域とを行き来するための替え指を身につけるように著している。これは、運指をスムーズにするだけでなく、音色の向上にもつながる。

[編集] シャリュモー音域

「喉の音」よりも低い音域はシャリュモー音域と言われ、甘美な音色で非常に愛される。この呼び名は、そのもととなったフランスの古楽器である前述のシャリュモーにちなむ。シャリュモー音域の下(低音域)は、太く、野性的な響きを併せ持ち、怪しげな雰囲気を出すことも可能である。

[編集] クラリオン音域とアルティッシモ音域

「喉の音」よりも高い音域はクラリオン音域と言われる。シャリュモー音域の第3倍音に当たり、明るく開放的で、よく通る音色は金管楽器のクラリオンを彷彿させる。「小さな(接尾辞et)クラリオン(clarion)」という意味の「クラリネット(clarinet)」という名称もこの音色からきているとおもわれる。さらに、シャリュモー音域の3オクターブ上に当たる最高音域(アルティッシモ音域と言われる)があり、比較的細身で、極めて通りの良い音がするが、音程はとりにくい。

[編集] クラリネット属の各楽器

E♭クラリネット
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E♭クラリネット

より高い音や低い音を求めて同属楽器が作られている。クラリネット族の各楽器は、いずれも原則的に同じ運指を用いることができる。

変ロ調のソプラノ・クラリネットよりも高い音域の管の短い楽器は、必ずしも成功しているとは言えず、わずかに高いだけのハ調のものも近年になってようやく実用的になり始めたばかりである。変ホ調のソプラニーノ・クラリネット(Es(エス・)クラリネット)は多く使われるが、これは、ソプラノ・クラリネットに比べると幾分金属的な音を出す楽器である。

主なクラリネット属の楽器は次の通りである。

呼称 管調 記音に対する実音 備考
和名 各言語名
ソプラニーノ・クラリネット

(ピッコロ・クラリネット)

(小クラリネット)

伊:Clarinetto piccolo

独:Piccoloklarinette

仏:Clarinette sopranino

英:Piccolo clarinet

  (Sopranino clarinet)

G G 完全5度 シュランメルで使う。シュランメル以外はまず使用されない。ハンマーシュミット社(オーストリア)が製作している(エーラー式のみ)。
As A♭ 変イ 短6度 小編成のバンドで使うことがあるが、全般に使用機会は少ない。
Es E♭ 変ホ 短3度 「エス・クラリネット」・「エス・クラ」と呼ばれる。管弦楽・吹奏楽でよく使われる。特に、管弦楽では近代以降に作曲された4管編成の曲で登場する。楽譜上で単にクラリネットとしか書かれなくても、5線の段位置と調号とでこの管は理解される。
D D 長2度 管弦楽で稀に使用される。モルターの作品に、このD管のために書かれた協奏曲がある。楽譜上で単にクラリネットとしか書かれなくても、5線の段位置と調号とでこの管は理解される。
ソプラノ・クラリネット

(クラリネット)

伊:Clarinetto soprano

独:Sopranoklarinette

仏:Clarinette soprano

英:Soprano clarinet

C C 同度 楽譜上には存在するものの、最近までは多くB♭クラリネットで代用されてきた。しかし、後に良い音色の楽器が開発され、最近では多く使われるようになってきている。
B B♭ 変ロ 長2度 単にクラリネットというと、まずこれを指し示すほど、最も標準的なクラリネットである。管弦楽・吹奏楽でも、クラリネット属の中で最も使用される。
A A 短3度 単にクラリネットというと、B♭クラリネットの次にこれを指し示すほど、標準的なクラリネットである。特に管調が書き添えられていなくとも、5線の段位置と調号とでこの管は理解される。
G G 完全4度 一般的ではないが、トルコの民族音楽で使用されている。
バセット・クラリネット 伊:

独:

仏:

英:

B B♭ 変ロ 長2度 低音域をバセット・ホルンに該当する記音Cまで拡張されたクラリネットとして名づけられた。モーツアルト没後200周年を記念して1991年に復元された。
A A 短3度
バセット・ホルン 伊:

独:Bassetthorn

仏:

英:Basset-horn

G G 完全4度 クラリネットとは若干異なる楽器であるが、クラリネット属に分類される。モーツァルトの時代に発明されたとされ、クラリネットよりも低音域が広いことから、当時有望視された新しい楽器であった。
F F 完全5度 G管は後に、更に低音域の広いF管へと改良され、モーツァルトがこの楽器へ作曲した諸作品の中でも、1曲以外は全てF管のためであった。現代においては、かつてFアルト・クラリネットで代用されてきた。
アルト・クラリネット 伊:Clarinetto contralto

独:Altklarinette

仏:Clarinette alto

英:Alto clarinet

F F 完全5度 バセットホルンの代用として使われる。
Es E♭ 変ホ 長6度 管弦楽においては殆ど見られないが、吹奏楽等ではヴィオラ音域を担当する。F管よりもこちらのEs管の方が一般的である。
バス・クラリネット 伊:Clarinetto basso

独:Bassklarinette

仏:Clarinette basse

英:Bass clarinet

B B♭ 変ロ 長2度(仏式) 3管編成以上の管弦楽や吹奏楽で低音域を担当する重要な役割を担う。特に、ファゴットには苦手な弱音が必要な場合や、敏速な動きを必要とする場合には欠かせない楽器である。B♭管ソプラノ・クラリネットに対して、ちょうど1オクターブ低くなる。最低音が記譜音E♭(実音D♭)のものと、記譜音C(実音B♭)まで拡張されたものとがある。
1オクターヴ+長2度(独式)
A A 短3度(仏式) 一時期滅んだかに見えたが、最近はセルマー社などが製造している。ワーグナーエルガーなどに用例がある。
1オクターヴ+短3度(独式)
コントラアルト・クラリネット 伊:Clarinetto contra-alto

独:Kontra-altklarinette

仏:Clarinette contra-alto

英:Contra-alto clarinet

Es E♭ 変ホ 長6度(仏式) 吹奏楽・クラリネットアンサンブル等で使われる。E♭アルト・クラリネットに対してちょうど1オクターブ低く、クラリネット・セクションに重厚な響きを加える。
1オクターヴ+長6度(独式)
コントラバス・クラリネット 伊:Clarinetto contrabasso

独:Kontrabassklarinette

仏:Clarinette contrabasse

英:Contrabass clarinet

B B♭ 変ロ 1オクターヴ+長2度(仏式) 吹奏楽・クラリネットアンサンブル等で使われる。B♭バス・クラリネットに対してちょうど1オクターブ低く、クラリネット・セクションに重厚な響きを加える。
2オクターヴ+長2度(独式)
オクトコントラアルト・クラリネット 伊:Clarinetto octocontra-alto

独:Oktokontra-altklarinette

仏:Clarinette octocontra-alto

英:Octocontra-alto clarinet

Es E♭ 変ホ 1オクターヴ+長6度(仏式) 2006年現在、非常に珍しい楽器である。E♭コントラアルト・クラリネットに対してちょうど1オクターブ低い。
2オクターヴ+長6度(独式)
オクトコントラバス・クラリネット 伊:Clarinetto octocontrabasso

独:Oktokontrabassklarinette

仏:Clarinette octocontrabasse

英:Octocontrabass clarinet

B B♭ 変ロ 2オクターヴ+長2度(仏式) 2006年現在、非常に珍しい楽器である。B♭コントラバス・クラリネットに対してちょうど1オクターブ低い。
3オクターヴ+長2度(独式)

[編集] キー・システム

クラリネットの前身楽器であるシャリュモーが一般化しなかったのは、前述のように第2倍音が使えないために、1オクターブと完全5度の音のために異なる指穴を開けなければならず(次の音で同じ指が使える)、それでは指で穴を押さえきれなかったせいである。キー装置が開発されて、必要なとき以外は常に閉じておいたり、指の届かない穴の開閉を操作できるようになって初めて、1オクターブと完全5度の指穴に対応し、第3倍音との間をスムーズに繋ぐことができるようになった。

指穴の配列並びにキー装置は、現在までさまざまなものが開発されている。

[編集] ベーム式

もっとも一般的なのが、ベーム式(フランス式)クラリネットのキー・システムである。1843年にフランスのビュッフェ(L. A. Buffet)とクローゼ(H. E. Klose)によって、ベーム式フルートのキー・システムを応用して開発された。管弦楽吹奏楽ジャズなどで広く用いられている。キー・システムの機構は複雑になってしまうが、比較的単純な運指が実現でき、機動性が高い。初心者にも向いている。

[編集] エーラー式

ドイツ式のエーラー式クラリネットは、1812年にミュラー(I. Müller)が開発した13キーのクラリネットを元に、ベーム式クラリネットが発明された約60年後(※1)オスカール・エーラーによって開発された。ベーム式クラリネットの利点も取り入れられている。エーラー式クラリネットにも音色のよさから愛好家は多い。また、特にドイツ人のクラシック演奏者はエーラー式クラリネットを好んで使っている。

  • (※1)日本ではエーラー式をもとにベーム式が作られたという間違った解釈がまれに見受けられるが、これは大きな間違いである。なぜならエーラー式を開発したオスカール・エーラーが生まれたのは1855年でベーム式が生まれた1839年頃にはまだ生まれていないからである。また、ベーム式はドイツ式の亜種という意見も稀に見受けられるがこれは不適当な意見である。ベーム式クラリネットは独自に開発されたものという解釈が適当であろう。ベーム式によってフランスでは多くの小品やソナタが生まれた。

[編集] そのほかのキー・システム

また、オーストリアではウィーンアカデミー式という楽器が使用されている。

アルバート式のキー・システムは最近はあまり用いられていない。音色はベーム式やエーラー式とは明らかに異なる。もともとはクラシックでも使われていたらしいが、ベーム式やエーラー式のクラリネットに混じって演奏すると目立ってしまう。また、大きな音量が出る。アルバート式のクラリネットは、ニューオーリンズ・ジャズディキシーランド・ジャズといった古いスタイルのジャズを演奏するときによく用いられた。現在でも古いスタイルで演奏するときに用いられることがある。

リフォームド・ベームとは、エーラー式キー・システム用に設計された管に、ベーム式キー・システムを実装したクラリネットである。エーラー式の音色のよさとベーム式の機動性ある運指とを兼ね備えている。

[編集] 材質

[編集] 管体

管は木製が一般的で、グラナディラ(よく黒檀の一種という表現がされているが、グラナディラはマメ科、一方ローズウッド(紫檀)の仲間、黒檀はカキノキ科であり、厳密には異なる樹木である)という黒くて硬い木が最もよく用いられている。グラナディラはアフリカサバンナに生息する樹木で、クラリネットの管体として加工できるようになるには、100年近く必要であるといわれる。なお、グラナディラ自体も黒い色はしているが、クラリネットとして加工する際には、割れを防止するなどの意味で黒い塗料が塗られる。したがって、クラリネットの黒い管体の色は、グラナディラそのものの色ではない。

ごく安いモデルではABS樹脂合成樹脂の一種)製のものもあるが、音色がよくないのでアマチュアの奏者でも本番で用いることはほとんどない。また最近では、マウスピースと同じ「エボナイト」製のクラリネットも出回り始めた。ただし、木につきものの「割れ」を心配する必要がないため、中高の吹奏楽部で初心者に持たせたり、マーチングや野外応援用などに用いられることがある。他に、ローズウッドやココボロなどを用いた楽器もある。

メタル・クラリネットといって、金属管で作られたクラリネットもある。もともとは廉価な普及用に作られていたが、音色が木製の楽器に匹敵あるいはより良いので、愛好家も多い。コントラバスクラリネットなど、大型のクラリネットでは、木材の入手の困難性や耐久性の問題などから、金属管のものも少なくない。

最近では、セラミックスを用いた楽器も見られる。さらに、近年では良質なグラナディラの入手が困難となってきていることから、グラナディラの粉末とグラスファイバーなどを混合して成形したものもある。

管体の材質についてはヤマハのページが参考になる。

[編集] キー

キーは、管の材質に関わらず金属で作られており、表面にはメッキされているのが一般的であるが、廉価製品の中にはニッケルメッキのものもあり、またかつては木や象牙で作られていた。キーの材質としては、洋白を用いるのが一般的である。音色に影響を及ぼすことから、その配合やメッキの質・厚さなど、メーカーによって工夫が凝らされている。

キーの形状は楽器の外観に大きく関わることから、メーカーごとに意匠の違いがある。

ベーム式クラリネットでは単なるヘラ状のレバーが用いられるが、エーラー式クラリネットでは小指で操作するキーにローラーが取り付けられ、指を滑らせて切り替えられるようになっている。

キーは素手でも簡単に変形できるため、楽器の組み立て・分解の際には、キーを曲げてしまわないように注意を払わなければならない。キーバランスの狂いは、タンポが音孔を正常に開閉できなくなって音質・音程に影響するほか、運指のミスにもつながる。

キーのうち、音孔を指で直接塞ぐ部分以外には、タンポが接着されている。タンポに関しては次項で説明する。また、キーの操作に際してキーが管体に触れる部分や、他のキーと触れる部分には、コルクなどが貼られている。このコルクの厚みは、キーバランスに影響する。

[編集] タンポ

音孔のうち、指では直接開閉できない部分をカバーするためにキーに取り付けられた、円盤状で柔軟性のあるパーツである。指が届かない範囲に音孔を設ける場合や、指での開閉に連動して隣り合う音孔を開閉する場合など、さまざまな部分に用いられている。

クラリネットのタンポの素材としては、フェルトにフィッシュスキン(魚の薄皮)を巻いたものが一般的であるが、プラダー(羊等の腸皮)を用いる場合も多い。サクソフォンと同様、革を用いる場合もある。レジスターキーのタンポには、通常、コルクが用いられる。また、近年では合成皮革やハイテク素材を用いたものもある。屋外で使用されることが多いプラスチック製のクラリネットや、扱いに不慣れな初心者向けのクラリネットでは、耐久性や価格の面から合成素材を用いる場合も多い。さらに、音質を改善する目的で、タンポの中心に反響板類似の小片を取り付けたものもある。

タンポは、通常、シェラックと呼ばれる接着剤でキーに固定される。

タンポは、指の代わりに音孔を開閉するものであるから、音孔に確実にフィットし、また離れなければならない。したがって、その厚さ・傾き・固さなどは、音質に大きく影響する。これを調整するには長年の熟練が必要である。

[編集] バレル(樽)

バレルは、マウスピースと管体とを接続する部分であるが、音色や吹奏感に大きく影響することが確認されている。このため、近年では、クラリネットのメーカーが趣向を凝らすことはもちろん、さまざまなメーカーが、さまざまな素材、さまざまな形状の互換バレルを生産している。

また、バレルの長さが楽器全体のピッチを変化させるため、各メーカーとも、長さの異なる純正バレルを何種類か用意していることが通常である。世界的には、概してヨーロッパではピッチを高く、アメリカでは低く合わせるといわれており、したがって欧州向け製品には短めのバレル、アメリカ向けには長めのバレルを付けているようである。

[編集] ベル

ベルは、マウスピースの反対側に位置する部分であり、閉管楽器のクラリネットといえども、この部分だけは円錐形をしている。一部のクラリネットではベルにも音孔とキーが取り付けられていることがあり、また音質・音程への配慮から、穴が開けられているモデルもある。これに倣って、自らベルに穴を開ける奏者もいるようである。

上述の通り、ベルには音孔もキーもないことが一般的で、軽視されがちであるが、楽器全体の音色に影響することが認識され始めている。このため、前述のバレルと合わせて、互換ベルだけを生産するようなメーカーも増えてきている。

[編集] マウスピース

唄口は、硬質ゴム製が最も一般的である。もともとは木製であった。現在でも木製の歌口を好む奏者も多い。クリスタル・マウスピースといって、ガラス製のものもある。音色が丸く、愛好者も多い。

硬質ゴムの中では長らくエボナイトが使用されてきたが、硫黄分を多く含んでおり、硫化によってキーのメッキが変色したり、人体への影響が懸念されるなどで、近年ではアクリル樹脂やABS樹脂を用いたものが増えてきている。また、管体と同様、セラミックスを用いたものなどもある。音色に重大な影響を与えることから、管体の選定以上に気を使う奏者も少なくない。

[編集] リード

リードは葦製がもっとも一般的である。クラリネット用のリードは、多くの場合、すぐに楽器に取り付けて使用できる完成品の形で供給されるが、原木や半完成品を仕入れてきて自作するプレーヤーも存在する。原材料となる葦の主な産地としては、南フランスオーストラリアアルゼンチンなどがある。 畑から収穫された葦は、数年間乾燥させられ、その後、必要とされる厚み、幅に応じて切り出される。形状を整えるためには、コンピューター制御のメイキングマシンを使うメーカーもあるが、小規模な工房などではすべて手作業で行うところもある。 完成品のリードは、厚さ・コシの強さなどを器械で測定し、一定のグループごとに箱詰めされる。「番号が大きくなる順に固さが増す」とする場合や、「Soft/Medium/Hard」、「Light/Medium/Strong」など簡易な分類とする場合、さらにこれらを組み合わせて細かな設定をする場合など、メーカーによってさまざまである。なお、これらの表示は個々のメーカーが定めた独自基準にすぎないため、同じ固さの表示でもメーカーが異なれば吹き心地が変わることが多い。

リードの固さは、使用するマウスピースやリガチャー、奏者の好みに応じて、適切なものを選択する必要がある。一般に、開きが大きく、あるいは長くなるほど硬く厚いリードを用い、逆の場合は薄く柔らかいリードを用いるとされるが、個人の好みもある。マウスピースメーカーによっては、おおむね推奨される範囲の固さを示している場合もあるが、これを超えるリードを使ってはいけないという意味ではない。

葦製のリードは、気温や湿度の影響を受けやすい。そのため、工場出荷時点での品質と、プレーヤーの手許に届いた時点での品質が異なることがあり得る。これを克服するため、検品後に密封し、プレーヤーが開封するまでは同じ湿度を保てるようにした製品が出回り始めている。 また、その日の演奏環境や、使用後の保存状態などにより、リードの状態は刻々と変わり続ける。これをいかに管理するかが良いリードを使い続けるポイントとなり、またプレーヤーの悩みどころでもある。このために、湿度を任意の範囲に保てることを謳う商品もある。

クラリネットのリードには、大きく分けてフランス管用とドイツ・ウィーン管用がある。後者を、ドイツ管用とウィーン管用に、さらに細分するメーカーもある。 フランス管の方が内径が太いためマウスピースが大きく、その分リードの幅・長さが大きくなるが、フランス管用のマウスピースにはドイツ・ウィーン管用のリードを使えるケースがある。もっとも、本来想定されている使用方法ではないため、マウスピースとリードの相性や、奏者との相性によって、実用にならないことも多い。

プラスチック・リードといって、合成樹脂で作られたリードもある。また、木材を溶かし込んだ特殊な繊維を圧縮して作られたリードもある。天然素材でない分、気温や湿度の影響を受けにくく、長持ちするといわれるが、音色の点で敬遠する奏者もいる。

前述の通り、リードは高度なマシンや熟練した職人の手で作られ、精度は非常に高いが、輸送過程での僅かな変質や変形は避けられず、またマウスピースの個体差やプレーヤー個人の歯並び・アンブシュアによって、必ずしもそのまま使えるとは限らない。そのため、自分にとって最適なバランスとなるように、調整することも必要である。 リードの調整には、目の細かい紙ヤスリやナイフが用いられる。ナイフは、リードを加工するためのリードナイフもあるが、総じて高価である。リードの調整にはノウハウが必要で、また微妙な力加減も覚えなければならず、修練が必要である。 また、調整が必要とはいっても、調整さえすればすべてのリードが実用に耐えるわけではないことに注意しなければならない。とくに初心者は、その問題がリードに起因するのか、楽器自体の不具合か、奏法が誤っているのか、正しく認識できないことが多く、ともすると「リード弄り」に明け暮れてしまうおそれもある。良いリードを選び、作ることは良い演奏の助けとなるが、リードの良し悪しを正しく判定できるだけの、確固とした演奏力も不可欠である。

クラリネット用のリードメーカーとしては、Vandoren(ヴァンドーレン・仏)、Glotin(グロタン・仏)、Rico(リコ・米)等が有名であるが、他にも数社が世界的に供給を行っている。また、小規模な工房を営み、ハンドメイドの良さをアピールするメーカーも増えている。

[編集] リガチャー

リガチャーは、リードを唄口に固定するための器具である。古くは紐が使われており、リードを唄口に巻きつけて固定した。現在でもエーラー式のクラリネットを使用する場合に一般的に用いられている。

ベルト状のまたは合成皮にねじを付け、リードを唄口に締め付けて固定する皮製のリガチャーは、現在広く用いられている。安価なところでは皮の代わりに合成ゴムを使用したものもある。金属製のリガチャーも皮製と同じぐらい一般的に使用されている。形状は皮製と同様のベルト状のものや、リガチャーがリードや唄口に接触する部分を極力減らすように金属棒で作られた多角柱の骨組みのようなものもある。

リガチャーは、クラリネットの音源となるリードの振動を受け止めるものであるから、音色にも影響する。影響の大きさは、奏者だけに吹奏感や音色が違って感じられる軽微なものから、誰が聞いても明らかなほど音色が変わる大きなものまでさまざまである。奏者にしかわからない影響ならば無意味だと思えるかもしれないが、演奏は精神的な作業であるので、吹き心地のよさは奏者のイマジネーションを刺激してより表現豊かな演奏をもたらす重要な要素である。

おおよそ、皮などのやわらかい素材のリガチャーはリードの振動を吸収し、柔らかい音色になる。これは、リードの振動エネルギーをリガチャーに逃がしてしまうということでもあるため、金属製のリガチャーに比べ同じ音量を得るのにより強い息を吹き込むことになる。その反面、音の暴れは金属製に比べて少なく、固有の音色が乗りにくいことから、愛用者も多い。

金属製のリガチャーは、リードの振動を吸収しにくいため、より弱い息でも楽に音量を出せる。特に高次倍音(俗に音色のなどと呼ばれる)が吸収されずによく響くので、よく通る音を楽に出せる。また、素材やメッキの音を意図的に載せることで、好みの音色を作り出すことも可能である。もちろん万能のリガチャーなどというものはなく、奏者の演奏スタイルに適切なものが選ばれる。リガチャーは奏者だけではなく、職人にとってもこだわりがあるようで、大手メーカーから街の楽器店まで製作を手がけ、実にさまざまなオリジナル・モデルが販売されている。

唄口、リード、リガチャーは密接な関係にあり、ひとつを変えても吹奏感や音色が大きく(ときには演奏不可能なほどに)変わることがあり、組み合わせとして捉えて慎重に選ばなければならない。もちろん楽器本体との相性も絡んでくる。

[編集] 著名なクラリネット演奏家

[編集] クラシック

  • アルフレート・プリンツ
  • アレッサンドロ・カルボナーレ
  • ウォルフガング・マイヤー
  • エルンスト・オッテンザマー
  • カール・ライスター
  • ギィ・ダンガン
  • ザビーネ・マイヤー
  • ジェルヴァース・ドゥ・ペイエ
  • ジャック・ランスロ
  • チャールズ・ナイディック
  • ノーベルト・トイブル
  • パスカル・モラゲス
  • ペーター・シュミードル
  • ポール・メイエ
  • ミシェル・アリニョン
  • リチャード・ストルツマン
  • リヒャルト・ミュールフェルト
  • レオポルト・ウラッハ
  • シア・キング
  • アントニー・ペイ
  • エンマ・ジョンソン
  • 赤坂達三
  • 磯部周平
  • 稲垣征夫
  • 加藤明久
  • 齋藤行
  • 十亀正司
  • 山本正治
  • 横川晴児
  • 浜中浩一
  • 小谷口直子
  • 田中正敏

[編集] ジャズ

[編集] 代表的な作品

[編集] ソプラノ・クラリネット(協奏曲・室内楽曲のみ)

[編集] ソプラニーノ・クラリネット

[編集] バス・クラリネット

[編集] 主なクラリネット・メーカー

日本ではクランポンまたはビュッフェ・クランポンと呼ばれることが多い
  • Otmar・Hammerschmidt(オットマール・ハンマーシュミット)
ウィーンフィルのクラリネットセクションが古くから愛用し続けていたウィーンタイプ・クラリネットの最高峰
英語読みの「ヘンリー・セルマー」が定着しているが、本来フランスのメーカーであるという理由で、フランス語読みの「アンリ・セルメール」にこだわる人もいる

[編集] 主な教則本

  • クラリネット学習の為の合理的原則(J.R.グルウサン著、J.ランスロ監修、日仏音楽出版株式会社、ISBNなし): 初心者用として定番の教則本。
  • クローゼ・クラリネット教本1(H.クローゼ著、S.ベリソン編著、ISBN 4-11-548311-3): 古くから用いられている教則本。
  • クローゼ・クラリネット教本2(H.クローゼ著、S.ベリソン編著、ISBN 4-11-548312-1): 古くから用いられている教則本。

[編集] 関連項目

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