民法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
通称・略称 | なし |
---|---|
法令番号 | 明治29年4月27日法律89号 |
効力 | 現行法 |
種類 | 民法 |
主な内容 | 私法の一般法(総則、物権、債権、親族、相続) |
関連法令 | 不動産登記法、戸籍法、法例、利息制限法、借地借家法、商法など |
条文リンク | 総務省法令データ提供システム(第1編〜第3編)(第4編・第5編) |
法令情報に関する注意:この項目は特に記述がない限り、日本の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映してない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律の専門家にご相談下さい。免責事項もお読み下さい。 |
民法(みんぽう)とは、民法典、あるいは私法の一般法のことをいう。
前者の意味で用いられるのが一般的である(形式的意義における民法、狭義の民法)が、諸々の法規範のうちの一定領域を画して、その範囲のものを「民法」と総称することもある(実質的意義における民法、広義の民法)。
目次 |
[編集] 形式的意義における民法(民法典)
日本における形式的意義における民法とは、制定法である「民法」という名の法律、いわゆる民法典のことをいう。具体的には、明治29年法律第89号の別冊として編成された民法第一編第二編第三編(総則、物権、債権)及び明治31年法律第9号の別冊として編成された民法第四編第五編(親族、相続)の形式上二つの法典が民法典である。全体が1898年7月16日から施行された。その後、日本国憲法の制定に伴い、その精神に適合するように(特に家制度の廃止など)後2編を中心に根本的に改正された。
以上のように、民法典は、形式上は明治29年の法律と明治31年の法律の二つの法律から構成されると理解されており、市販の六法全書なども両者を別の法典を構成するものとして扱うことが多かった。これに対し、法制執務上は、後者は前者に条文を加える旨の改正法であり、民法典は形式上も一つの法典であるとする立場が採用されていた。
この点については、口語化と保証制度の見直しを主な目的とした民法の一部を改正する法律(平成16年法律第147号)が施行されたことに伴い民法の目次の入換えがされ、入換後の目次が一体となっていることから、今後は一つの法典として理解することになると思われる。
制定当時の民法と現在の民法は形式上は同じ法律であるが、その形式・内容ともに大きな変化が加えられているため、戦後の改正以前の民法を「明治民法」と称することもある。
なお、日本における民法編纂の歴史については民法典論争を参照
[編集] 実質的意義における民法
民法典の中に若干異質な規定(例えば民法第84条の3のような刑罰規定)があること、および、民法典以外にも民法典中の規定と等質ないし極めて近接した性格の事柄を規律対象とする法規範が存在することから、このような概念が立てられる。
この場合、「市民生活における市民相互の関係(財産関係、家族関係)を規律する法」として、民法典の諸規定に加え、不動産登記法・戸籍法などの諸法もここでいう「民法」に含まれるものとされる。
ただし、いかなる特別法がこの「民法」に含まれるのか、必ずしも明確な基準があるわけではなく、学者によりその説く範囲は異なっている。そのため、この概念区分の実益に疑問が呈されることもある。
[編集] 民法典の構成
法典の編成は、いわゆるパンデクテン方式を採用している。全1044条。講学上は、第1~3編を財産法、第4、5編を家族法として扱う(ただし、第4、5編をまとめて「家族法」とすることの問題点につき、家族法の項目を参照)。
[編集] 財産法の構成
財産法が対象とする法律関係に関するルールは、所有関係に関するルール(所有権に関する法)、契約関係に関するルール(契約法)、侵害関係に関するルール(不法行為法)に分けられる。このうち後2者を統合して、特定の者が別の特定の者に対し一定の給付を求めることができる地位を債権として抽象化し、残りについて、物を直接に支配する権利、すなわち特定の者が全ての者に対して主張できる地位である物権という概念で把握する構成が採用されている。
そして、債権として抽象化された地位・権利に関しては、債権の発生原因として契約法にも不法行為法にも該当しないものがあるため、そのような法律関係に関する概念が別途立てられる(事務管理、不当利得)。物権に関しても、所有権を物権として抽象化したことに伴い、所有権として把握される権能の一部を内容とする権利に関する規定も必要になる(制限物権)。また、物権と債権に共通するルールも存在する(民法総則)。
このような点から、財産法は以下のように構成されている。
[編集] 家族法の構成
家族法のうち、親族関係に関するルール(親族法)は、夫婦関係を規律するルール(婚姻法)、親子関係を規律するルール(親子法)がまず切り分けられるが、その他の親族関係についても扶養義務を中心としたルールが必要となる。また、親権に関するルールは親子法に含まれるが、編成上は親子法から切り分けられて規定されている。これは成年後見制度と一括して制限行為能力者に対する監督に関するルールとして把握することによるものと考えられる。
相続法については、主として相続人に関するルール、相続財産に関するルール、相続財産の分割に関するルール、相続財産の清算に関するルールに分けられる。その他、遺言に関して、遺言の内容が必ずしも相続に関することを含まないこともあり、いわゆる遺言法を相続法と区別する立法もあるが、日本では相続法に含めて立法化しており、それに伴い相続による生活保障と遺言との調整の観点から、遺留分に関するルールを置いている。もっとも、これらを通じた規定について総則にまとめる方式が採用されていることもあり、法文上は、これらのルールが明確に区別されていない部分がある。
このような点から、家族法は以下のように構成されている。
[編集] 民法理解の実際
民法典の構成は以上のとおりであるが、実際には、以下のように理解することができる。
[編集] 権利の主体
民法において権利の主体は人である。ここで人には自然人 (人間) と法人がある。 法人とは典型的には株式会社等の会社であるが社団法人・財団法人等もある。いずれにせよ、法人とは人間が集まった集団・団体等について、法律が人間と同様に人格・法主体性を認めたゆえに人として取り扱われるのである。(もっとも自然人 (人間) に人格・法主体性を認めるというのも憲法や法律が決めたことにすぎないともいえる)
自然人と法人には法主体性があって権利の主体となれるということは、例えば金銭支払請求権やボールペン所有権や家屋所有権が認められうるということである。
これに対して、人間以外の動物には法主体性はみとめられない。動物は物 (ぶつ) の一種として扱われる。例えば飼い犬に飼い主がえさを与えても、飼い犬にえさの所有権が認められるわけではない。飼い主は犬という物の所有権を有しているし、飼い主はえさという物の所有権も有している。飼い犬が飼い主に扶養請求権を有しているわけでもない。もちろん、飼い犬は (たとえ何らかの代理人と称する者がいたとしても) 人間に対して民事訴訟を提起する権利はない。植物も物の一種であるし、ボールペンも物の一種であるし、土地や家屋も物の一種である。物は一般に所有権等の対象 (客体) となる。しかし、現代では人間は物とはならず、人間は所有権の対象とはならない。
[編集] 債権と物権
人と物の区別に対応して、民法上の主要な権利として、債権と物権の区別がある。
債権とは人に対してある行為を要求する権利である。(人に対する権利)
債権の種類としては、金銭支払請求権、物の引渡し請求権等が代表的であるが、移転登記請求権(移転登記手続きへの協力を求める請求権)、人を目的地まで運ぶよう求める請求権(運送請求権)、家庭教師として教えてくれるよう要求する請求権 など労務の提供要求を含め様々な種類の債権がありうる。(契約自由の原則)(損害賠償請求権・費用償還請求権等は本質は金銭支払請求権であり、原因となる事由を示すためにそのような名称がついているにすぎない。債権の名称は比較的自由に名づけることができる。)
なお、「債務」とは債権を義務者の側から見た表現にすぎず、債権と債務が意味する権利義務関係は同一のものである。
物権とはある物を自由に処分し扱うことのできる権利である。(物に対する権利)
債権と異なり、物権の種類は、所有権・抵当権等 法令に定められたものしか認められない。(物権法定主義 民法175条)
[編集] 債権の発生原因
民法を理解するうえで最も複雑なのは、契約を含む債権の発生から履行・消滅に至るフロー・構造であり(根拠条文が各所に散在している)、これらの全体像を理解するには、まず債権の発生原因ごとに理解するのが有益である。
債権の発生原因としては、民法第三編 第二章・第四章・第五章の、契約・不当利得・不法行為が主要なものである。(その他に、事務管理という発生原因が第三章に規定されているが重要性は低い。) (それ以外にも、例えば物の所有者が不法に物の占有を侵害されたときは、不法に占有する者に対して、物の返還請求ができる などの物権的請求権というものが解釈上認められている。これは、請求権であり人に対する権利であり債権であって、物権を根拠として債権が認められる一例といえる。)
[編集] 契約(成立と効果)
債権の発生原因の最も重要なものは契約である。
契約は、法律行為の一種であり、法律行為は、意思表示と当事者と目的とその他の要件があるときに成立する。(法律行為については、民法90条以下に定めがある) したがって、契約も、意思表示と当事者と目的とその他の要件があるときに成立する。(契約書は多くの場合、証拠にすぎない。ただし、実際には契約を立証するには契約書が重要な意味を持つ。)
[編集] 売買契約
例えば、人「甲」が「壷」という動産の所有権を有しているときに、人「乙」が「甲の壷を買いたい」との売買契約申込みの意思表示を行い、甲が承諾の意思表示を行うと、そこに契約成立の目的もみとめられるため、民法521条以下により甲と乙の間に売買契約という法律行為が成立する。
ただし、甲が未成年者であるなど、意思能力や行為能力に問題があるときは、法律行為(契約等)の取消しや法定代理等の問題が生じる。
また、意思表示については、民法93条以下に定めがあり、例えば意思表示の過程に詐欺等があると、96条による意思表示の取消し等の問題が生じる。(意思表示が無効となり、結局、法律行為である契約が成立要件を欠くことになり、法律行為の取消しや契約の取消し等ともいわれる)
契約の効果は、債権的効果(債権の発生)と物権的効果に分けて考えられる。
債権的効果と物権的効果が併せ生じるという契約の典型は売買契約である。例えば、物の正当な所有者(「所有権」という物権を有する者)が売買契約を締結すると、売主は買主に所有権を移転する義務 (債務)(具体的には、物の引渡し義務や不動産についての移転登記協力義務等)が生じ、買主は売主に所有権を移転させるよう要求する権利 (債権)(引渡し請求権や移転登記請求権等)が生じる (債権的効果)と同時に、買主が所有権という物権を取得するという物権変動が当然に生じ(民法176条)、物権的効果も生じるといえる。(ただし、厳密にいえば、物権変動は、売買契約の効果として生じるというよりは、民法176条の要件が満たされることによって生じる ともいえる。したがって、純粋には契約からは債権的効果しか生じないと考える余地はありうる。)
なお、法律行為の内容の確定(解釈)の基準は、①意思表示 ②慣習 ③任意規定(民法91条・92条) ④条理 の順であるから、契約内容の詳細もこの基準の順で確定(解釈)される。(ただし、強行規定に反するものは認められない) 契約内容の確定(解釈)に関し、民法の契約各論の規定の多くは任意規定であり、特約(意思表示)があれば原則として特約が優先される。
契約で債務の履行が遅滞した場合などには、法定解除(民法541条以下)の制度があり、一方的に契約を破棄することができる。
甲が乙と売買契約を締結した後で、甲が丙と売買契約を締結したといった二重譲渡の問題が生じたときは、債権については、乙も丙も甲に対して引渡し請求権等の債権を有するが、所有権という物権が乙と丙のいずれに帰属するかという物権関係の問題については、民法177条・178条の対抗要件等の問題になり、例えば不動産については原則として登記によって所有権の帰属が決せられる。(不動産登記の手続については、主に不動産登記法が定めており、登記所(法務局)で手続を行う。)
債権を有しているが回収が面倒なので、回収が得意な者に債権を安く売り渡すというように、債権が売買される場合(債権売買)もあり、このときは債権譲渡という効果が生じる。(民法466条1項) 債権譲渡も契約の物権的効果の一種として位置づけられる。(債権の移転であるから物権とは関係ないが、買主が売主に請求するまでもなく移転する点で「物権的」だと表現される。)
ただし、契約から物権的効果が生じるとは限らず、物権的効果が生じない契約も多い。(債権契約)
金銭の消費貸借契約などは貸付金返還請求権・利息支払請求権という債権を生じるだけで、原則として物に対する支配権 (物権) は生じない。また、他人の物を自分の物だと詐称して売買契約を結んだとき (他人物売買) は、売主は買主に対して所有権を取得させなければならないという義務 (債務) が生じ、買主としては売主に対して所有権を取得させるよう要求する権利 (債権) が生じるが、売主が物の所有権について無権限である限りは、買主が物権を取得するという物権的効果は生じない。
[編集] 不動産賃貸借契約
売買契約に次いで重要なのは、不動産賃貸借契約である。不動産賃貸借契約は、理論的には債権契約であり、賃借人は、不動産の所有者等の権利者に対して、不動産を利用させるよう要求する権利(債権)を取得するにとどまるのが原則であって、本来契約自由の原則が支配する。(一般に債権は物権に比べて弱い権利とされ、また契約内容を自由に決定できるので、貸主に有利であることから、不動産賃貸借の形式が多く用いられてきた。) ただし、賃借人保護という社会政策的見地から、借地借家法(しゃくちしゃっかほう)などの特別法をはじめとして、数多くの強行規定が定められており、同時に、不動産を利用する物権である地上権に近い措置もとられており、例えば不動産賃借権では原則として登記が第三者対抗要件となる。(民法605条)
[編集] 不法行為
契約に次いで重要な債権発生原因は、不法行為である。(民法709条以下)
故意・過失による加害行為により、違法に他人の権利が侵害され、損害が発生し、加害行為と損害の間に因果関係があり、加害者に責任能力があるとき、被害者から加害者に対する損害賠償請求権等が発生する。例えば、他人の物を壊したときの損害賠償請求権や、交通事故による損害賠償請求権等である。
[編集] 不当利得
不当利得とは、財産的価値が一方から他方へ移動し、これによって利益を得た者があるときに、それをそのままにしておいては不当といえるとき、受益者から損失者に利得を返還させる制度である。(民法703条以下)
①法律上の原因なく、②他人の財産または労務によって利益を受け、③他人に損失を与え、④受益と損失の間に因果関係が認められる場合に、損失者から受益者に対して、不当利得返還請求権が生じる。
一般的に、権利義務関係は民法その他の法令の条文の規定に基づいて判断されるが、それらの条文を適用した結果が、全体的にみて正当な理由なくある者に有利で、ある者に不利である といえるとき、不当利得の規定を根拠に、不当な利得を損失者に返還させることができる。
例えば、売買で代金を支払った後に解除原因や取消原因が判明し、解除や取消しが行われたとき、契約は消滅ないし無効となるが、このとき代金返還請求の根拠条文として、解除の場合は545条1項がある。しかし、取消しの場合は、代金返還請求の根拠となる具体的規定は存在しない。したがってこのときは、不当利得の規定を根拠に不当利得返還請求することになる。(取消しでの物の返還請求の場合は目的物の所有権に基づく物権的返還請求権を根拠とできるが、同様に不当利得返還請求権も根拠となる)
[編集] 債権(債務)の履行の過程
債権の履行の過程について、種類債権の場合と特定物債権の場合について概要を述べると以下のとおりである。
[編集] 種類債権(制限種類債権)の履行の過程
例えば、多数の馬を飼っている者が、買主に馬1頭を売る と約した場合、買主の債権は、種類債権(一定の種類に属する物の一定量の引渡しを目的とする債権)である。(正確には、売主が有する馬の数には限界があるから、制限種類債権といえる。)
種類債権は、品質の等級が「確定」することで、不特定債権になる。確定は、特約, 慣習, 任意規定 の順による。任意規定としては、中等の品質(401条1項)とされるから、特約・慣習がない場合は、不特定債権の目的物は中等の品質の馬である。
不特定債権の履行には、「弁済の提供」と「特定」を要し、その後、債権者が受領すると「弁済」が成立して債権者は目的を達し、債権は消滅する。
「弁済の提供」(493条)とは、債務者が目的物を準備(ただちに弁済できる程度の準備)して、提供することである。債務(債権)は特に定め等がなければ、持参債務(債務者が債権者のもとに持っていく)であり、「提供」は原則として、債務者が債権者の眼前にその目的物を持ってこなければならない。例外的には、準備ができた旨を告げれば足りる。 弁済の提供がなされると、債務者は それ以後、債務不履行責任を免れる(492条)等の効果が生じる。
不特定債権の「特定」 とは、目的物が特定の物に定まることである。特定は、「給付をなすに必要な行為の完了」(民法401条2項前段)があるか「債権者の同意を得て指定」(民法401条2項後段)がされるか「当事者が合意」したときに成立する。 特定が生じると、①債務者の給付義務が特定(目的物が特定)し、以後、引渡しまで、債務者はその特定物について、善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)(400条)を負う。さらに、②危険負担が移転するかには争いがあり、判例・通説は肯定するが、有力学説は危険負担は支配を収めたときから移転するにすぎない として否定する。
その後、債権者が受領して「弁済」が成立すると、債権者は目的を達し、債権は消滅する。(弁済は、第1章・第5節で債権の消滅原因とされる。)(債権者が受領しない場合には、受領遅滞(413条)の問題が生じる。)
不特定債権では、特定される物ないし弁済される物は欠陥(瑕疵(かし))のない物でなければならない。 物に隠れた欠陥(瑕疵(かし))があったときは、たとえ債権者が隠れた瑕疵に気づかないまま受領した場合でも、理論的には特定は生じておらず、債権・債務は履行されないまま存続しており、理論的には債務者は引き続き正常な物の給付義務を負っている と解するのが 判例及び学説の大勢である。
[編集] 特定物債権の履行の過程
例えば、「インパクトクイーン」という名の特定の馬について売買契約が成立した場合、買主の債権は特定物債権である。
特定物債権では、債権が発生した時点(契約成立時)から、債務者はその保管に関して善管注意義務を負う。(400条) そして、特定物債権では、「特定」のプロセスは不要であり、「弁済の提供」に続いて受領がなされて「弁済」が成立すると、債権者は目的を達し、債権は消滅する。
なお、特定物債権では、債権が発生した時点での目的物に隠れた欠陥(瑕疵)がある場合には、目的物はその隠れた瑕疵を持った物自体であり、債務者としては、瑕疵のある物についてそのまま引渡し(現状引渡し)の準備をすれば「弁済の提供」となり、そのまま引き渡せば、「弁済」になるとするのが通説である。(483条) つまり、売主としては、正常な性能を持つ特定物(普通の馬並に走れる「インパクトクイーン」という馬)を提供する義務はない。 (ただし、債権発生時点から善管注意義務は負っているから、保管中に善管注意義務違反があったといえるなら、善管注意義務違反(善管注意義務を履行しなかったこと)について損害賠償責任を負う余地はある。)
ただし、隠れた瑕疵があった場合でもそのまま引き渡せば足りるという結果は、買主に不利益であるため、民法では瑕疵担保責任の制度が定められている。(570条)(ただし、瑕疵担保責任の規定は任意規定であるから、これと異なる特約・慣習があるときは認められない。)
[編集] 債権(債務)の不履行
債務が履行されない場合は、債務者の帰責性の有無により、債務不履行 か 危険負担 の問題になる。
[編集] 債務不履行
債務が履行されず、債務者に帰責性があるとき、債権者に損害賠償請求権や強制履行権等が生じる。(民法412条以下)(債務不履行責任) (契約に関する債務についての不履行は、契約解除権(法定解除権)(540条以下)も発生することが多い)
[編集] 危険負担
一般に債務の履行が不能となった場合、債務は消滅するが、 双務契約において、一方の債務が債務者に帰責性なく履行が不能となって消滅したとき、他方の債務も消滅するか について、定めがある。(ただし、危険負担は任意規定)
不能となって消滅した債務の債権者に帰責性があるときは、他方の債務は消滅しない。(536条2項)(不能消滅債権の債権者が負担を負う点で、債権者主義と呼ばれる。)
当事者双方に帰責性がないときは、他方の債務は消滅するのが原則である。(536条1項)(不能消滅債権の債務者が負担を負う点で、債務者主義と呼ばれる。) ただし、特定物に関する双務契約で目的物が滅失・毀損したときは、債権者が負担する(534条:債権者主義)が、その適用範囲については議論がある。
[編集] 関連する法律
民法典が想定する登録制度について定めた法律として不動産登記法、戸籍法、後見登記等に関する法律などが、特定の法律関係に関する民法典の特別法として借地借家法、商法、各種の労働法、割賦販売法などが、民法典やその特別法に規定する権利を実現するための民事手続法として民事訴訟法、人事訴訟法、家事審判法、民事執行法、民事保全法、各種の倒産法などがある。
[編集] 日本と各国の民法の関係
いわゆる旧民法(いわゆる民法典論争により施行延期となり、そのまま施行されずに終わった、いわゆるボアソナード民法)がフランス民法(いわゆるナポレオン民法典)を範としていたのに対し、現在の日本民法は、ドイツ民法を手本にしたとされていた(これを、単に継受、あるいは法典継受という。もっとも、この時参照されたのは、制定されたドイツ民法そのものではなくドイツ民法草案である)。これに加え、大正期以後、日本法学がドイツの多大なる影響下に発展したことを受けてドイツ民法の日本法に与える影響ははかり知れない(これを、法典継受との対比において学説継受ということもある)。戦前の民法学の大家であった鳩山秀夫がドイツ民法の大きな影響を受けていたことや、日本民法学において長年にわたり第一人者であった我妻栄がドイツ民法的な思考方法で戦後日本民法の理論を構築したこともあって、現在の判例理論上のドイツ民法的な思考方法が散見される。
ところが、近年になり、日本民法は、その構成についてはドイツ民法典の構成に準じた構成がされているが、その内容についてはむしろフランス民法をベースとして構築されていることが指摘されるようになり(これは、旧民法がフランス民法を継受したものであったことのほか、民法典の起草を担当した三博士のうち、梅謙次郎と富井政章の二人の留学先がフランスであったという事情による)、学界にあってはこの観点からの民法理論の再構築がおこなわれている。この流れを牽引したのは星野英一や平井宜雄である。
なお、日本民法はイギリス民法からも若干の影響を受けている。いわゆるultra viresの法理を規定した民法43条(法人の能力)や、Hadley v. Baxendale事件の判決で表明されたルールを継受した民法416条(損害賠償の範囲)のほか、民法526条(隔地者間の契約の成立時期)がそれにあたるとされるが、起草を担当した三博士の一人である穂積陳重が、最初イギリスに留学したことによる影響である。なお、穂積は、イギリス留学の途中、依願により民法学論争たけなわであったドイツに留学先を変更した。
以上のことから、日本民法は、ドイツ民法を始めとした特定の母法に基づくというよりも、多角的に比較法の参照が行われて立案されたと評価される。
[編集] 関連項目
[編集] 関連書
- 『民法I(第三版)』内田貴 東京大学出版会 2005
- 『抵当権と利用権』内田貴 有斐閣 1983
- 『契約の再生』内田貴 弘文堂、1990
- 『民法III―債権総論・担保物権(第二版)』内田貴 東京大学出版会 2004
- 『民法II―債権各論 』内田貴 東京大学出版会 1997
- 『契約の時代―日本社会と契約法』内田貴 岩波書店、2000
- 『民法IV―親族・相続(補訂版)』内田貴 東京大学出版会 2004
代表的な民法学者については、日本の法学者一覧を参照のこと