近鉄21000系電車
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近鉄21000系電車 |
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起動加速度 | 2.5 km/h/s | ||
営業最高速度 | 130km/h | ||
設計最高速度 | 170km/h | ||
編成出力 | 125kW×24=3000kW | ||
編成定員 | 266(レ)+36(デ)=302人 | ||
全長/全幅/全高 | 20500(21200)mm/2800mm/3758.9mm | ||
編成重量 | 244t | ||
軌間 | 1435mm(標準軌) | ||
電気方式 | 直流1500V | ||
制御装置 | 抵抗制御 | ||
ブレーキ方式 | 電磁直通ブレーキ(HSC-D)等 |
21000系電車(21000けいでんしゃ)は、近畿日本鉄道の特急形車両。現在の近鉄の看板車種である。1988年(昭和63年)に登場し、デザイン性や性能など、従来よりも大きく向上させ、ビスタカーが中心だった近鉄特急のイメージを大きく変えることに成功した。
アーバンライナーplus(Urban Liner plus)の愛称を持つ(旧称・アーバンライナー(URBAN LINER))。また、改良増備型で「アーバンライナーnext」の愛称を持つ21020系電車については別項をご参照願いたい。
目次 |
[編集] 概要
近鉄特急は、東海道新幹線の開業で、大阪-名古屋間の名阪特急の利用者が激減し、伊勢志摩や奈良大和路への輸送をメインとするようになった。しかし、1970年代後半から国鉄の相次ぐ値上げで、所要時間が倍かかるが値段の安い名阪特急に利用者が戻るようになった。既に12410系などを導入して輸送力増強を図っていたが、より攻めの姿勢を取るべく、1985年頃から新型特急の計画を進めていった。
それまでの近鉄特急の目玉といえば2階建車両を連結したビスタカーであったが、都市間輸送である名阪特急ではビジネス客が多いこと、高速化に伴う低重心設計が必要なこと、室内高を十分確保するには2階建車では限界があり、また新幹線100系電車の登場で2階建て車自体が珍しくなくなっていたこともあり、快適化を図る目的から2階建車はやめて、JRのグリーン車に相当する特別席車両を設けた。
[編集] 車両諸元
21000系は、従来の特急車両のイメージを変えるべく、近畿車輛のデザインチームにより数多くの案を経て、斬新なデザインを作り上げた。CADを使用して、流線型非貫通の前頭形状を設計している。
車体の塗装は、これまでの近鉄特急のオレンジと紺に代えて、クリスタルホワイトをベースにオレンジの帯を多数通すものとした。前面は4枚の曲面ガラスによる窓とし、窓内に角型の前照灯を設けている。尾灯・標識灯は、LED式となった。側面は外付け式の連続タイプの窓として、引き締めている。車体構造は従来通り鋼製で、卵型断面としている。
編成は当初、難波方からモ21100形(Mc)-モ21200形(M)-モ21300形(Mc)-モ21400形(Mc)-モ21500形(Ms)-モ21600形(Msc)の6両編成とした。モ21300-モ21400は編成から切り離して単独で本線上を走行できるようになっており、需要の少ない場合には4両編成として運行することも可能である。このため、モ21200およびモ21500形には入換用運転台を装備している。編成のうち、モ21500-モ21600形はデラックスカー(当初はデラックスシート車と称した)、他はレギュラーカー(普通車)である。デラックスカーには"DS"のマークが入れられている。
性能面では、従来車に比べて40%の増強を目的に全電動車方式とした。制御装置は三菱電機製抵抗制御で、1台で8台の主電動機を操作できる(1C8M)方式で、百位が奇数の形式に搭載される。従来の近鉄特急と同じように、低速(直列)・高速(並列)を手動で切り替える。主電動機の出力は三菱製125kwで、全電動車方式のため従来よりも抑えられている。起動加速度は2.5km/h/s、減速度は4.0km/h/s、最高速度は130km/h(新青山トンネル上り勾配限定。その他区間では制動装置などの条件において120km/hに制限されている)である。33‰上り勾配において架線電圧10%減・定員乗車条件でも均衡速度110km/hを確保している。台車は、近畿車輛製シュリーレン式で、曲線通過時の性能を向上させるため、軸距を2,100mm(従来2,200mm)に短縮した。また、近年台車にヨーダンパを取付けた。パンタグラフは下枠交差式が百位が奇数の形式に2台ずつ装備される(6両で計6台)。制動装置は従来通りの電磁直通式HSC-Dで抑速・発電制動付きである。特急車としては初めて応荷重装置も取り付け、常用自動ブレーキは廃止された。
この車両よりハイウェーホーン(警笛)が変更され、以後の近鉄特急車の標準のハイウェーホーンとなった(一般車には採用されていないが、例外的に生駒ケーブルで導入された新型車はこのハイウェーホーンを採用している)。
乗降扉は折戸で、6両で7ヵ所(モ21500形のみ2ヵ所)設置される。
客室は、ダーク調の内装として落ち着きを持たせた。デッキとの仕切り部分はグレーをベースに色の模様をちりばめている。仕切り戸の脇には、LED式の号車番号などを表示する装置を設けたが、駅名などを流すディスプレイは取り付けられなかった。照明は天井は間接照明のみとし、荷棚下には蛍光灯の半間接照明と、カーテン部分に電球のライトを設けている。なお、デラックスカーの床には、カーペットが敷かれている(当初は通路のみ)。
座席は、デラックスカーは通路を挟んで海側が1人掛、山側が2人掛のリクライニングシートである。背もたれを大きくすることで豪華な雰囲気を出している。座席の基本構造は在来の近鉄特急車と同じで、リクライニングすると座面が前にスライド、また回転させる場合には背もたれを起こす方式であるが、リクライニングのレバーはひじ掛け上部に設けられて操作がしやすくなった。また、テーブルは面積を広げている。テーブルのない側のひじ掛けには音楽サービス用のヘッドホン用ミニジャックとチャンネル・音量の操作盤が設けられており、オリジナルの音楽サービスが楽しめた(イヤホンは無料で貸し出した)。
レギュラーカーは、従来車と同じ形状のリクライニングシートである。音楽サービスは、車内に電波を送信しており、FMラジオで受信することで聴けるようになっていた。シートピッチはいずれも1,050mmと広く、各席に足置き台が設けられている。
なお、近鉄特急の座席番号は、従来数字のみ(奇数が窓側、偶数が通路側)で示していたが、デラックスカーについては、JRなどと同様、「10A」といった英数字の組み合わせとなった(10Aは大阪寄から10列目、A席は1人掛け、B席は2人掛けの通路側、C席は同じく窓側である)。
空調装置は、ヒートポンプ式エアコンを採用し、床下に設けられた排気扇で空気の流れを作ることで、温度管理をする。座席下のヒーターは補助的なものである。エアコンなどの電源は、DC-DCコンバータを採用、空気圧縮機は低騒音形でいずれも百位が偶数の形式に設けられた。
トイレは、モ21200、モ21300、モ21500の各形式に設けられた。モ21200とモ21300は和式と男子小用、洗面所の組み合わせ、モ21500は洋式と洗面所とした。便器はいずれも陶器で、床は赤御影石としている。洗面所は、お湯の出る水栓を設置(従来の近鉄特急では水のみ)、モ21500形はスペースを広めに取っている。
車内販売準備室をモ21200、モ21400形に設けている。モ21200形の準備室は4両運転時の予備的なものである。メインで使われるモ21400形の準備室には荷物搬入用の扉が設けられている。このほか、モ21600形には公衆電話が設置された。
運転台は、制御装置や制動装置が従来と同じため、配色こそ新型車に合わせたのの、形状そのものは近鉄標準の仕様となっている。中間運転台ユニットのモ21300―モ21400形は貫通式で、スペースも狭いが、流線型のモ21100、モ21600形は広々としており、運転台直後のデッキからは乗客が前面展望を楽しむことも可能である。前面窓が傾斜し、デッキの照明がダウンライトで暗いことから映り込みがなく、トンネル区間や夜間でも仕切のカーテンは閉めない。ただし、伊勢中川駅構内の短絡線上での運転士交代時には閉めることにしている。
1次車は6両3編成が1988年に製造されたが、同年暮れから増備された2次車以降は、当系列使用列車の好評により4両以下での運行を想定しなくてもよくなったことから、運転台付の中間ユニットのモ21300―モ21400形を中間電動車に変更し、形式をモ21304(M)―モ21404(M)にした。変更点は運転台の廃止(モ21404形は簡易運転台を設置)し、モ21304形は定員が4名増加、モ21404形は車内販売準備室の拡大に充てた。準備室の荷物搬入用扉は引戸に変更されている。この他、流線型運転台に冷房装置を増設、客室ではカーテン部のライトにスイッチを取り付け、レギュラーカーの座席には2人掛けの中央にもひじ掛けを装備、デラックスカーでは通路のカーペットを全面敷きに、洋式トイレには自動で便座シートを交換する装置を設けた。また、乗降扉の折戸の形状も変更されている。
1990年には、計11編成が出揃ったが、8両編成の需要も出てきたため、1次車3編成については、運転台付中間ユニット(編成記号UB)のモ21300―モ21400形の2両を、モ21304―モ21404形(2代目モ21301~3、モ21401~3)に差し替え、捻出された中間ユニットは増結用としてモ21700形-モ21800形(モ21701~3、モ21801~3)に改番した。なおモ21700形-モ21800形を挿入の上8連になる編成は一定していない。また連結される位置はモ21404形とモ21500形との間となる。結果、当系列は6両編成11本と、増結用2両3本の72両となった。
なお、これらの特徴により、1988年のグッドデザイン選定商品となり、また1989年度(第32回)鉄道友の会ブルーリボン賞も受賞した。また、平成になってからは特別席であるデラックスカーを持つことから、お召し列車にも使われるようになった。
[編集] アーバンライナープラス
登場以来近鉄の看板として活躍してきたが、バリアフリーへの対応などが行われておらず、時代に合わせた車内サービスを提供するため更新することになった。更新に当たっては、後述する21020系を製造して予備を確保し、2編成ずつ工事を行うことにした。2003年から2005年にかけて、高安検修センターで施工された。
改造内容は21020系に準じた設備にしているが、編成定員は4名多い。また、既存の割り付けを引き継いでいるため、部分的にはデッドスペースも発生している。デラックスカーは従来編成中に2両あったが、今回の改造でモ21500形はレギュラーカーになり、デラックスカーはモ21600形1両のみとなった。
座席は新開発の「ゆりかご形シート」が採用された。背もたれを倒すと角度に応じて腰部が沈んで座席が傾くような状態となる。デラックスカーはリクライニングの機構を電動にしたのが特徴で、読書灯も背もたれに取り付けられている。2人掛け座席も1人ずつ独立性を高めた形状としている(回転時は2席一緒に回転する)。レギュラーカーは、リクライニングの機構は手動である。
仕切り部には液晶モニターが設けられた。また車内販売は廃止されたため、準備室は撤去された。他に喫煙コーナーを2両に1ヵ所設置し、全席禁煙に変更している。喫煙コーナー用の空調装置も新設された。トイレは、洋式と男子小用の組み合わせに変更、モ21304形には女性専用のトイレも設置された。モ21200形には車椅子対応の設備とトイレが設置され、この車両のみ乗降扉はプラグドアに取り替えられた。性能面については改造されなかったが、パンタグラフはモ21100とモ21304形に母線を引き通して、それぞれ1台ずつにした。塗装は、21020系に併せて裾部をベージュに塗り替え、窓周りのオレンジの細線はなくなるなど変化した。
名称もアーバンライナーplusとなった。
[編集] 運用形態
21000系は1988年3月18日のダイヤ変更から運用を開始した。特急列車の内、主に近鉄難波駅-近鉄名古屋駅間を途中の上本町駅・鶴橋駅のみに停車する名阪ノンストップ特急の運用に就いているが、2006年現在では、名阪乙特急(途中主要駅停車)や伊勢志摩方面・奈良方面などの他系統の特急にも充当される。時刻表では、運転される特急列車には「UL」のロゴないしはローマ字の表記がなされる。
デラックスカーはグリーン車なみの設備ながら、登場時、大人300円という低廉な料金で人気となった(1989年4月1日の消費税導入で、それまでの通行税10%が廃止され、消費税3%となったため、280円に値下げとなった)。現在は大人410円となっている。但し、奈良線の阪奈特急での運用に限り、特例としてデラックスシートの特別料金は不要となっている。
また、21000系を使用する列車では多客期・列車には状況により、前述の通り8両編成を組む時もある(近鉄京都線では6両編成のみ)。
かつては大阪線・高安車庫所属が多かったが、一部が大阪での折返基地である奈良線・東花園車庫所属となった後、現在は21000系72両がすべて名古屋線・富吉車庫に所属している。
[編集] 乗務員
基本的に鶴橋駅、上本町駅以外は無停車なので乗務員交替は行われないが、車内で行われる。普通、電車は運転士と車掌のペアだが、ノンストップ特急のみ、運転士と運転士でペアが組まれ、アーバンライナーの場合は伊勢中川駅の短絡線徐行通過時に、車内改札で先頭車両に移っている運転士とこれから車掌業務に移る運転士(要するに電車を運転中の運転士)とが入れ替わる。
[編集] テレビCM
アーバンライナーでは従来の近鉄特急とは異なるCM戦略が取られることになったのが特徴である。車両のイメージや快適性を前面に押し出し、有名人も起用している。
[編集] CMに出演した有名人
- 阿波野秀幸(1988年、当時近鉄バファローズのエース投手)
- 中村泰士(1990~1年、作曲家・タレント)
- 仰木彬(1992年、当時近鉄バファローズ監督、同年ダイヤ変更広告にも起用)
- 東雲あきら(1992年、当時のOSK日本歌劇団男役トップであった。仰木とともに起用された)
- 榊莫山(1995年、書家)
[編集] 関連商品
本系列の原型仕様がTOMIXからNゲージで、KATOからNゲージとHOゲージでそれぞれ6連セットで製品化されている(HOは現在生産休止)。「plus」改造後は「プラレール」で製品化されている。
[編集] 関連項目
[編集] 外部リンク
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